【報告】SDGsセミナー「持続可能な地域であるために…企業とNPOが取組むSDGs」

【報告】SDGsセミナー「持続可能な地域であるために…企業とNPOが取組むSDGs」

日時:2024年2月7日(水)13:30~16:30(180)
場所:みえ県民交流センター 交流スペースA
参加者:35名

【ゲスト】
(アドバイザー) 戸成 司朗氏(一般社団法人中部SDGs推進センター代表理事)
[SDGs取組報告]
・大川運輸倉庫株式会社      代表取締役  大川暁史氏
・株式会社プラトンホテル     企画広報   鈴木哲也氏
・下津醤油株式会社      代表取締役社長  下津浩嗣氏
・三栄林産株式会社      代表取締役社長  坂 成哉氏
・NPO法人四日市ウミガメ保存会  代表理事  下田菜生氏
・NPO法人shining            理事長  岡田聖子氏
・NPO法人a trio            理事長   山口友美氏

【趣旨説明】 

新海洋子(みえ市民活動ボランティアセンターセンター長)

企業のSDGs取組み、NPOのSDGs取組みからお互いが学びあう場を企画した。SDGsは持続可能な社会を実現するための目標である。企業、NPOそれぞれの取組みをお聞きし、さらに地域課題の解決に向けて、どのようなパートナーシップ(協働)が可能かについて考えたい。本日は、アドバイザーとして中部SDGs推進センターの戸成氏をお招きした。企業、NPOのSDGs取組みへのアドバイス、その後に講演をお願いしている。

【SDGs取組紹介】

下津醤油株式会社 代表取締役社長 下津 浩嗣 氏

 去年の秋、 農林水産省が中心となり企業のサステティナブルな取組みを紹介する「サステナアワード2023」が開催された。動画を応募したところ、審査員から「取組内容がとても心に刺さった」と優秀賞をいただいた。応募した動画(You tube)を見ていただきたい。
(You tube視聴)
・下津醤油は、全国醤油品評会において農林水産大臣賞を3度受賞し 
ている 創業1856年の老舗醤油屋。
・町に明かりを灯したいと地元一身田商工振興会のメンバー27名であかり屋を立ち上げ運営する。何か名物を作りたい。
・多気町で300年作り続けられている伊勢芋に出会い、育てる苦労と希少性を理解した。
・これまで伊勢芋の皮は廃棄されてきたが、様々な課題に直面し続けながら、多くの人の協力により2年近くかけて伊勢芋の皮を使った6種類のカリントウを開発した。
・伊勢芋の粉末を利用するために、短大とコラボしてドラ焼きやコロッケなどを開発している。
・希少性を知ったからこそ、余すことなく利用することが責任だと感じた。農家は新たな製品に生まれ変わったことを本当に喜んでくれた。 研究した甲斐があったと思うとともに育てる大切さを感じた。
 特にSDGsをやると思ってSDGs活動に取り組んだことはない。思い返してみると人とのつながりが全てであった。商品開発も寺で何か名物料理を作れないかがきっかけであった。伊勢芋は前から知ってはいたが、農家が大変な苦労して作っていた。伊勢芋は種芋に1個の半分を使い、収穫できる伊勢芋はたった1個である。その後も芽かきなど苦労して作るのを間近に感じた。大切な伊勢芋だから皮も何か製品にできないかと思った。日持ちのするお土産ができないかと思いつきでかりんとう開発を始めた。
 普通なら挫折していたが、農家の顔を知り期待もされていたから頑張れた。捨てられていた皮が商品になるのが嬉しいと言われ、2年ぐらいかけて製品化することができた。SDGsというよりは、地域の持続性、農家を助けたいという気持ちである。
 高田本山という立派なお寺があるにもかかわらず、インバウンドと言われながら外国人も日本人も来ない。自分たちが商品づくりをすることで、農家も喜び、観光客も呼べる。SDGsは人とのつながりだと思っている。
以前は醤油の油は廃棄し燃やしていた。運搬と廃棄に1ℓ50円ぐらいはかかっていたのが、つながりができ、1ℓ10円で引き取ってもらえる。醤油カスも牧場が牛の餌にと引き取ってくれる。
 食育という面では、年間を通して多くの小学生の見学を受け入れている。夏休みには自由研究用の工場見学会も行っている。子供たちが自作の醤油ラベルを貼って、お土産に下津醤油を持って帰ると本当に喜んでもらえ、感謝祭にも来ていただいている。全国的な大手醤油会社もあるが、津市では下津醤油を使う家庭が多いと言われることを目指したい。持続することが大事なことと考え、長く継続している。継続してやり続けた結果が、事業の持続性、地域の盛り上がりにつながると思っている。

>戸成 司朗氏(一般社団法人中部SDGs推進センター代表理事)
SDGsと言うとフードロスの取組みで、「捨てないで循環型社会を作る」という見方がある。それも実行レベルで大切な取り組みであるが、もっと根本的な話をすると、「人新世の資本論」という斎藤幸平氏の本が一昨年頃にベストセラーになった。資本主義が限界ではと言われている。ヨーロッパではコモン(共有)という概念があり、コモンを進めていくとコミュニティという言葉になる。北欧を中心にコミュニティをもう一度考え直そうという流れが起きている。
下津醤油の取組みは、地域に1つのコミュニティを作っていくものである。農家、製造会社、販売する人たちも含めて1つのコミュニティが出来あがっていく。持続可能な資本主義にとって大きな視点である。 どうコミュニティを復活させていくかが地域の持続可能性にとって1番重要な点である。
伊勢芋の皮を循環させていく過程で、昔のコミュニティとは違う、地域をつないで新しいコミュニティを作られている。 持続可能な地域にとって素晴らしい取組みである。今後ぜひ広げていただければ嬉しい。

大川運輸倉庫株式会社 代表取締役 大川 暁史 氏

 現在のSDGsに対する取り組みについて、輸送会社とSDGsはなかなかつながらないところもあるが、テーマとして3つにまとめた。当社は昭和26年に祖父が会社を立ち上げ、昭和57年現社名に変更し、昭和60年現住所である川越町に移転し、令和3年に私が代表取締役社長に就任した。その後、国の制度の改正も多く、令和4年に「働きやすい職場認証制度」という職場環境改善に向けた運輸事業者の取組みを「見える化」することで、運転者への就職を促進し、人材確保を後押しすることを目的とした制度ができた。いわゆるブラック企業ではないというような証明で、運送会社が長時間労働や低賃金という印象をなくすためでもある。当社も2つ星認証を取得している。その後、三重県のSDGs推進パートナーに登録させていただいた。「働きやすい職場認証制度」は、SDGs8番の「働きがいも経済成長も」に該当するもので、これに準拠していることを認識し、継続的に更新している。環境問題ないしSDGsの問題に関心を持ったきっかけは、損害保険会社の勧めであった。
 会社は四日市市に近い。四日市には四日市公害、四日市ぜんそくがあった。有毒ガスについては30年程前に東京都内や大阪府内で、浄化装置が付いていないトラックを入れない流入規制をした歴史がある。排気ガスは汚い、トラックの運送会社のダーティなイメージを払拭したいと考えていた。今はデジタルタコグラフに自社の運行記録が全て残る。この中にCO2排出量が表示されていることから、SDGs13「気候変動に具体的な対策を」という目標に対してできることはないかと考えた。環境に優しい物流に関心があり、別会社を立ち上げ、EVトラックによる物流を目指している。
 CO2排出量の管理では、環境に負荷をかけないアイドリングストップと走行時の適切な速度管理を機械導入により努めている。ディーゼルエンジンが主流のため排出ガスには有害物質が含まれるが、環境対応トラックの尿素SCRシステムにより、排ガスをきれいなものにして外に出す車両を95%以上導入している。将来的にはEVや水素で走るトラックが出てきたら三重県の中でもいち早く導入を検討したい。
 次にSDGs3の「全ての人に健康と福祉を」である。社員の健康管理と働きやすい職場認証制度に関わっている。自社では30歳以上の全社員に人間ドックの受診を義務付けている。私の父の遺言である「人間ドックや健康診断は毎年受ける」という言葉を受け継いでいる。診察結果を会社からフィードバックができる体制が整い、診断結果による再検査の費用も会社で負担している。ハラスメント窓口については、事務所のスタッフ4名の誰でも相談できる窓口を設置し、日々の業務による困り事や相談を随時受け付けるようにしている。
 地域貢献活動、NPOとのつながりは、川越町の工業団地に会社があるので、年に3~4回 、工業団地内の清掃を行っている。高松海岸の清掃や工業団地内の清掃の際には、弊社のトラックで集めたゴミを運び、地域貢献活動としている。また、国境なき医師団の募金に法人として、個人的にはミャンマーの里親の募金活動などにより「平等な教育」「平等な医療の保障」に役立てればと考えている。
 最後に、持続可能な物流を目指して2024年問題で長時間労働が規制されることになった。長時間労働による負担を減らすことにより、トラックドライバーの健康を維持していくことが不可欠になる。利益を追求することが企業ではあるが、同時に人間の豊かさを追求し相乗効果で、企業が発展していくのではないかと強く信じている。労働時間短縮によって少なくとも、就業時間が短くなり、CO2の排出量削減で地球環境にへの負荷を減らすことができる。これは社内だけでなく生産者や消費者の理解も必要になる。

>戸成 司朗氏(一般社団法人中部SDGs推進センター代表理事)
大川社長の人柄が日ごろの成果をつくっている。そういう意味で素晴らしい経営者である。東京都知事が、記者会見でディーゼル車の排出物がペットボトルに入った粉を振って話題になった。SDGsはある日突然許されていたことが許されなくなるということでもある。運送業界でも起きてくる。環境への取組みはもちろんだが、SDGsが1番に推進するベースは人的資本をどうやって強化していくかである。特に、トラック業界は人(ドライバー)が大切で、人に投資をするということは、人間ドック受診にしても結果として早く病気を見つけることによって、逆にコストが下げられる。放っておいて大事になっていく方が会社としてはダメージが大きい。決して慈善的に健康診断をしてるのではなく投資である。素晴らしい取組みである。
1つだけアドバイスをさせていただくと、ハラスメントを本社の窓口でやられている。これは素晴らしいことだが、ハラスメントの窓口を地元のNPOと提携し委託をして、社員はNPOに相談をするというような形で、外部に委託をするとより本音が出てくる。本社の社員の皆さんの負担も少なくなる。そのようなことも考えられたら良い。

株式会社プラトンホテル 企画広報 鈴木 哲也氏

 四日市の駅前にあるホテルとして今年で12年目を迎えている。「食と宿を通して地域社会に貢献する」が経営理念の中の1つにある。
 プラトンホテルの朝食の定番「みえの朝ごはん」は人気がある。桑名もち小麦の小麦生産者とコラボ商品として作っているパンケーキである。地元食材のオリジナルブランドになっている。また、農芸高校の生徒らとコラボレーションしてフロランタンというお菓子を作っている。地域の方たちとコラボレーションすることに積極的なホテルである。
 当ホテルは、公益社団法人日本非常食推進機構という全国の行政・企業等が保管する賞味期限の近づいた防災備蓄品を有効的に活用する事業に取組み、食品ロス削減を推進する事業を行っている団体と出会いがあり、連携事業を行っている。社員のために非常食を備蓄している企業はかなりある。しかし備蓄食とは言っても永久に保存できるものではなく、いずれ賞味期限が来ると産業廃棄物として捨てられる。何十万円というお金をかけて処分をするぐらいならなんとか活用できないかと考えている企業も多い。
 当ホテルは四日市大学の学食の運営もしている。四日市大学の学生とSDGsの活動の一環としてフードロスを考えるコラボレーション事業が生まれ、学食でリメイク食を提供させていただいた。ホテルの料理のように食べやすく、より美味しくリメイクしたものを学生の皆さんに召し上がっていただいた。継続事業にはなっていないので、今後継続させていくことが課題ではある。
 そのような活動をしていた時に、ある企業から自社に備蓄している非常食が間もなく賞味期限になるという連絡をいただいた。会社としての福利厚生でもあり、社員の昼食の弁当をつくってもらえないかという依頼を受け、防災食をリメイクしたサスティナブル弁当という形で提供したことがある。
 そういった活動を続けてきていろんなメディアに取り上げていただき、継続してもっと違う活動もできるのではないかと模索していたところ、新たに四日市の笹川にある子ども食堂に大手食品会社の賞味期限が近い食材を無償で提供しているという話があり、当ホテルに協力してもらいたいという依頼が入った。
 まだスタートしたばかりだが、企業や食品メーカーが賞味期限の近い在庫を抱えているという問題を踏まえ、今後どんな形で消費し子ども食堂の運営費にリターンができるかも模索しながら進めていきたい。
 ホテルの中でもSDGsという言葉が意識されるようになり、宴会場のビッフェで料理が残らないように、できるだけ召し上がっていただいてお帰りいただけることが「フードロス」につながることを案内している。  
 非常食やリメイクをした料理も今後は宴会場で出し、当ホテルに泊まっていただいて朝食で食べていただきたい。宴会場でビュッフェ料理を召し上がっていただくことがSDGsの活動になり、子ども食堂への支援につながっていることをもっとアピールしていきたい。このような取組みをしている当ホテルにお泊まりいただけるような仕組みをこれからしっかり作っていきたいと思っている。

>戸成 司朗氏(一般社団法人中部SDGs推進センター代表理事)
大変面白い取り組みである。どこの企業も備蓄品入れ替えの時にいろんなところに寄付しようとしている。セカンドハーベストに寄付するというのはよくある話だが、プラトンホテルの場合は、得意を生かして社会貢献しようという意味で、料理長を含めた料理人の方たちが、美味しくアレンジしてそれを活用されるという。非常に意義のある良い取組みである。各企業の非常食は、必ず定期的に順番に入れ替えをしなければいけない。特にこの地域でプラトンホテルが中心になってどうやって活用していくかを考える。それは企業とのつながりにもなり、お互いのネットワークづくりという意味でもぜひ続けていってほしい。

三栄林産株式会社 代表取締役社長  坂 成哉氏

 昭和25年に祖父が創業した弊社は今年で74年目を迎える。一昨年に私が会社の代表となり、創業時から続けている製材業の他、建築業、家具製作販売業、キャンプ場事業などを行いながら、現在はライフスタイルから森林に触れていただきたいとの想いで“森と木のあるライフスタイル”を提案することをコーポレートメッセージに掲げている。
 建築事業に関しては、特にパッシブデザインという省エネで快適な住宅を作る設計手法を用いて、太陽の光と熱、風を活かす、快適かつ省エネを目指した家づくりをしている。また、製材事業では時間軸の長い木材をいかにして活用し、その価値を生み出せるかということも私たちの使命だと感じながら日々の仕事をしている。私は製材事業は木材という地域資源を活かすことができる未来志向の仕事であること、そして持続可能な地域づくりには欠かすことのできない、私たちにとっても、地域にとっても重要で必要不可欠な事業だと思っている。
 弊社では鈴鹿川流域の環境の大切さを伝えるために、“流域”という考え方を通じて持続可能な地域社会をつくることを目的とした「鈴鹿川流域構想」を打ち出している。森林が健全な状態であるからこそ、森から川、海へと水が流れることで豊かな水資源を供給し、多くの生物の生命を育む糧となっている。亀山市加太地域は鈴鹿川の源流域に位置し、加太の山を源にする水は亀山市、鈴鹿市、四日市市を流れ、伊勢湾に流れ込んでいる。鈴鹿川流域に暮らす方、伊勢湾の恩恵を受けている方にとって鈴鹿川源流にある亀山市加太地域の森林環境はとても重要である。
 日本は国土面積の約66%が森林であり、そのうちの約40%が人工林である。人工林の70%がスギ、ヒノキであり、私たちが暮らす地域では特に戦後、スギやヒノキを多く植林してきた。しかし、子孫である我々が育てることをしなかったことで、人工林の荒廃が問題になってきている。遠くから山を見ると木は立派に育っているように見えるが、一歩山中に入ると手入れされていない木々が多く、自然災害により折り重なって倒れている木々もたくさん見受けられる。コロナ禍で発生したウッドショック時であっても伐採が進まなかった。その原因は林業従事者の減少や林道整備がなされていないことで長期に渡り木を育ててこなかったことの代償だと思っている。ウッドショック時であっても伐採することができなかった木は今後、どうなるのか?人は昔から木を植え、育ててきた。実を食するための木、暴風や土砂災害を防ぐために役立つ木、地域の歴史を守るために植えられた木など古くから人は木を植え、育ててきた。昨今、林野庁では森林の有する多面的機能の価値を示し、生物多様性の保全、希少種が減らないための保全、持続的な森林の利用を推進しているが、私たちの世代には木を育てる責任、そのためには木を活用する責任があると思っている。
 また、弊社では鈴鹿川源流域の加太地域を対象に「百年かぶとの森構想」を打ち出し、豊かな森づくり、川上の地域づくりも目指している。鈴鹿川流域で暮らす方に木の良さを知っていただき、少しでも多く活用していただくことで、加太地域を活性化することを目的としている。弊社の事務所、店舗、製材工場、そしてキャンプ場も加太地域にある。私たちは加太地域で自然保護活動をする市民団体と連携して生きもの調査をしたり、休耕田を活用して米作りや野菜づくりを始めたり、子どもたちに収穫などの体験の場もつくっている。また、加太地域にある古民家(空き家)を改修し、その活用方法を提案することで、地域にある大切な資源を活かすことができる事業も進めている。
 SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」を目標に、弊社が掲げる鈴鹿川流域構想や百年かぶとの森構想に共感いただけるたくさんの方と繋がりをつくり、このゴールに向けて進んでいきたいと思う。

>戸成 司朗氏(一般社団法人中部SDGs推進センター代表理事)
日本の森林の問題は大きな問題であり、世界的には21世紀は水の戦いになるだろうと言われている。日本の隣国の企業がかなりの日本の水源地を購入している。水源地を他国が所有したら大変なことになる。その中で、森というものが日本の中でどうあるか。コンサル会社の社員と製材会社を訪ね、山で木が育てられているのかを学んでもらった。ウッドショックの時に建設会社が国産材をどのように活用していくかについて話しをした。国産材を活用するためには林業を育てる必要がある。この取組みは、地域にとって大きな流れになっていくだろう。
三重県の企業、特に四日市には社会的影響の大きい企業がたくさんある。社員の間伐体験など連携した事業を生み出すことができる。企業はカーボンニュートラルの実現のためにTCFDという取組みが大きなテーマになっている。海外の熱帯林における伐採活動によって生態系が侵されている。加担した企業も責任が問われる。三重県は全国でも有数の森林県である。時間軸が長いので、頑張っていただきたい。
4社の話を聞いて、それぞれ違う視点で良い取組みをされている。地域を育てていくという取組みが素晴らしいと思った。この活動を広げ、三重県の SDGs取組みのリーダーとして活躍されることを期待している。

NPO法人a trio 理事長 山口 友美氏

 法人化して20年になる。キャリア教育を行い、インターンシップなど地域の企業と学校教育現場をつないでいる。学校教育現場でキャリア教育だけをしていても幸せな仕事につながらないことに気がついた。入社式を区切りに研修をして、社会人としての自覚を持ってもらうよう指導をしている。新入社員研修、管理職研修をした後に、働きやすい職場づくりプランを手伝うなど企業サポートをしている。
 NPO法人はミッションを大切にし、ミッションから活動を組み立てる。地域の課題が何か、困っている人をなんとかしたい、その課題を解決したいという思いから活動に入る。そもそもの存在そのものが、地域の課題解決、SDGs的なところがある。
 当法人の場合は、誰でもが参加ができる公募型のインターシップであり、その活動は「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」「働きがいも経済成長も」「人や国の不平等をなくそう」「住み続けられるまちづくりを」など様々なことにつながる取組みを行っている。昔、NPOが県に協働する先を指名し企画提案する事業があり、雇用経済部と当時の子ども家庭局と教育委員会を指定し、協働事業を行った。そこで生れたのが誰もが参加できる広域公募型の「三重チャレ」である。学校教育現場は、毎年、生徒が入学する。先生方は新しい生徒たちが入るため、卒業した生徒が気にはなるが関わることができない。卒業後どのような働きかたをしているのか、どんな状態でいるのかが全然見えない。一方、企業活動はお客様やステークホルダーとのつながりで完結しており、行政とつながる必要もなければ、学校とつながる必要がない。経済活動のみである。行政や学校と求めているものも立場も違う。お互いが話す言葉も違い、共通言語が見当たらない。そこでNPOがそれぞれに対応する言葉で翻訳や通訳する意義があると「三重チャレ」を始めた。その中でより一層NPOの価値や意義を感じるようになった。それぞれが違う立場で別の方向を向いて精一杯世の為人の為にがんばっているように見えるので、そこをNPOが共通の目標を作りだしつながりをつくっていく。
 今日、企業の話を聞いて、企業に足りないものが何か、NPOが持っていて提供できるものが何なのかを強く考えた。1社ごとの企業を理解し、その企業が何を人々に伝えたいのか、何がその企業の持つコアな部分なのかを含めてプログラムを発展させ、インターンシップをさせていただければと思う。今年、プラトンホテルでベッドメーキングを経験した高校生にたくさん気づきがあった。お客様側の目線からサービスを提供する側の目線になることを教えていただいたようだ。
採用、人材の確保だけではなく、何か意味を持たせていく。企業は目標達成力が強く必ず結果を出す人たちの集団である。一方NPOは「何のためにするか」「これはこういう意味がある」という意味づけが得意である。何のためにやるのか、誰のためにやるのかをNPOは明確にする。企業に不足しているもの、必要なもの、あればよいと思うものを探し出して意味づけをする。それが自身のNPOになければ他のNPOにつないでいく。
 今、私たちは、幸せな仕事をする!のミッションの元、三重チャレが20年間かけて育てた地元の子ども達が地元の企業で働いている、その会社の働く環境を良くしよう、地元の会社を強くしようと、がんばっている。それが当法人の責任である。
キャリアコンサルティングが今とても必要とされている。企業が進むべき方向と社員の幸せな人生、幸せな働きかたを合わせていく作業をこれからもやっていきたいと考えている。

NPO法人shining 理事長 岡田 聖子氏

 鈴鹿市で子ども食堂の他、学習支援、不登校の子どもたちのフリースペースづくりを行っている。こども家庭庁の要支援対象児童等見守り強化事業という虐待防止事業の委託を受け、子ども見守り宅食を行い、子育て世代の家庭訪問なども行っている。また、地域の農家と協力して子どもたちを連れての自然体験教室や、企業の協力を得て年に1回夏休みに地元の企業を知るための職業体験イベントを開催している。
 コロナ禍には、サービス業で働くシングル家庭や多子家庭の母親が、職場の営業時間が短縮されたために働く時間が短くなったり、働けなくなる状況になった。コロナ禍が明け、やっと働けることになったが、今度は物価高騰により明日食べるものがない、お米がないと子どもが直接電話してくるような状況である。本当に困っている家庭がたくさんある。
 余った食品や賞味期限が切れた食品を廃棄するといったニュースをよく見る。今年度は、食品ロス問題に取組み、食品を必要とする家庭に配布することで同時に解決できないかと考え、「すずっこフードバンク鈴鹿」を立ち上げた。三重県の補助金、企業からの食品の寄付、地域の農家からいただいた規格外の野菜などをスタッフが仕分けし、必要な家庭が取りに来るというフードパントリー宅食の取組みも、コロナ禍で始め、今年で4年目になる。
 昨年から始めた事業が「制服リユース」事業である。当団体の事業は、「私たちが何かをしたい」「この課題を解決したい」と始めたことはほとんどなく、毎年、現役の子育て世帯にどういったことがあれば地域で子育てがしやすいかというアンケートを取り、その回答から事業を組み立てる。その中で制服がとても高く入学時は頑張って買うが、子どもが成長した時にすぐに買い替えができないという制服問題が上がってきた。県立の学校に通っていた生徒が、「学校には行きたいが小さくなった制服では行きたくない。すぐに制服を買い替えることができなくて不登校になってしまった」という相談も受けた。あと何ヶ月で卒業するとしても、破れたり小さくなったら買い替える。卒業する時にとてもきれいな制服が捨てられてしまう。そういった問題を解決したいと「制服リユース」事業を始めた。回収ボックスは全部で40箱ぐらいを鈴鹿市の小中全校と、鈴鹿市にある県立高校、図書館、社協に置いている。鈴鹿にある企業にも協力いただき企業内に回収ボックスを置いていただいている。企業として何か社会貢献したいが、寄付は本社の決裁が必要となる。制服リユースボックスであれば、決裁を取る必要がないと快諾していただいた。企業だけではなく市民も参画することで、「こういうSDGsの取組みもある」「リユースしたら自分も少し貢献している」と子どもも含めて考えるきっかけになればと思う。
 フードドライブポストは、お中元やお歳暮でいただいた賞味期限も充分あるが使わないものを家庭から持ってきていただいて、企業内のフードドライブポストで預かる取組みである。現在進めている。「SDGsをしよう」と始めたわけではないが、三重県のSDGs推進パートナーに登録している。フードロスに対する取組みで貧困を少しでも減らし、少しでも不平等をなくせたらと思い、 SDGs12「作る責任、使う責任」にある「なるべく捨てずに使うことを考えるきっかけづくりをしたい」と思っている。取組み自体は私たちだけでできることではなく、制服リユースは鈴鹿市の教育委員会に協力していただいて学校に置かせていただいた。子ども食堂は行政や社協と協力して行っている。自然体験は地域の農家の協力で継続している。1つ1つの事業が企業、行政、地域の方々の協力と協働で成り立っている。
 子どもたちが三重県や鈴鹿市が好きで県外に出ていかない、もしくは他県の大学に行ってしまっても鈴鹿市が良かったと戻ってきてくれるように、地域が持続して住みやすい場所であることを願って事業を展開している。子どもは未来の宝であることをみなさんに伝えたいと日々思っている。

NPO法人四日市ウミガメ保存会 会長  下田 菜生氏

 毎月、四日市市楠町にある吉崎海岸の清掃をしている。吉崎海岸はかつて四日市公害による被害が大きかった磯部地区のすぐ隣である。その海岸にウミガメが産卵に来ることを四日市市民はほとんど知らない。もっと知ってもらおうとウミガメをシンボルに押し出し、海岸清掃を行っている。主催は楠地区の自治体である。当団体のメンバーがボランティアで関わっている。2009年1月から始めて16年目になるが、毎月第1日曜日に固定で行っている。朝8時から海岸清掃をして、9時から講師を招いての勉強会をしている。海岸の問題は、三栄林産の坂さんの話にもあったが、河川の流域全体で考えていかないといけない。坂さんの地域が上流であれば私たちの活動場所は河口である。山のことも川のことも考えてほしい。勉強会では山や川で活動されている方にも来ていただき、山と川の関連性や自分たちが住んでいる町で何ができるのかを考えるきっかけづくりとしていろいろな分野の講師に来ていただいている。
 四日市ウミガメ保存会の設立から8年4ヶ月経つ頃、海岸清掃も100回目を迎えたタイミングで代表を若返らせ次世代につなぐこととなった。環境問題がなかなか解決しない中で、20代の私に交代し、それから6~7年経ち80回になる。新たに「みんなのふるさと四日市」 というキャッチフレーズをつけた。先ほどshiningさんから「鈴鹿が良かったとみんなに戻ってきてほしい」という話があったが、私たちも四日市がそうなればよいと思っている。四日市のイメージが「公害のまち」と先行するのは仕方がない。しかし、 昨年の10月に、環境省から吉崎海岸が自然共生サイトに認定され、「民間による取組み等が行われ、かつ生物多様性の自然豊かなところが保たれている」と国が認めた場所になった。ウミガメだけではなく、植物や昆虫、キノコなどいろいろな生きものが絶滅危惧種に指定され、それらが存在する海岸が吉崎海岸である。公害のあった場所のすぐ近くにあり、絶滅危惧種が今もなお残っている場所であることを知ってほしい。
 活動日を2009年から第1日曜日から変えない理由の一つに、進学や就職、転勤など様々な理由で四日市離れても第1日曜日に吉崎海岸に行けばみんなに会えると思ってほしいからである。第1日曜日を覚えていてくれる。昨年は1月1日が日曜日であり、正月に帰省された方々がたくさん参加され、海岸清掃に200人ぐらい集まった。最高齢は90歳の方がいるが、そのおじいちゃんは「ここに来るのが楽しみなんだ。毎月、元気な姿を見せるのが自分の役割だと思っている」と言ってくださっている。みんなの活動や風景を写真に撮り、地域の写真展に出してくださっている。
 企業との連携では、山、川、海、様々な場所で活動をしている企業の方に講師として話をしていただいている。また、活動の運営も手伝っていただいている。四日市市の会社にウォーターサーバーを提供していただき、毎月海岸にウォーターサーバー持ってきてくださっている。参加者はマイボトルで水をいただいている。企業の新入社員の研修の一環として活動に参加していただいた。6月は環境月間であり参加者が600人ぐらいになった。去年だけでも2500人の参加があり、2009年から始まって延べ人数が2万人ぐらいになる。これからもいろんな方と協力していければと思い、活動している。

【講演】持続可能な地域であるために~企業とNPOが取組むSDGs~
    戸成 司朗氏(一般社団法人中部SDGs推進センター代表理事)

 今、新たな資本主義の時代に入る世界の歴史の転換期であり、持続可能な社会を求める時代に入った。 SDGsは、人の営みや経済活動を変えないと、人、社会、地球が滅びることを意味している。世界や地球が持続可能であるために、人類、企業、行政はどうするべきか。具体的な指針であるSDGsは 未来への羅針盤である。
 世界の2大リスクの1つは気候危機である。異常気象は、地球温暖化によるもので、やがて食料そのものが世界中で不足する時代が来る。

  もう1つが格差危機である。アメリカ合衆国では、従来は共和党が資本家や金持らの市場を重視し、民主党が労働者を代表し社会福祉を考えていた。しかし、トランプ氏による煽動により貧しい人たちの党というイメージだった民主党が格差問題により逆に責められている。
世界と地球の持続可能性に赤信号がついている。具体的に何が起きているのか。
気候危機の問題については、2026年には、EUに輸出する際に環境規制がゆるい国、例えば日本だが、対策が遅れた日本の企業に二酸化炭素を排出している量に応じて国境炭素税という税金をかけられる。
 格差危機の問題では、リーマンショックを契機に、2010年に金融の自由化の行き過ぎを止めようと金融規制改革法がつくられた。その後、2011年にビジネスと人権に関する指導原則が発行され、2021年には、OECDで法人税を最低15%にするという世界で初めて税金を合意するということが起きた。
新自由主義の経済とグローバル化が行き詰まったのが2008年のリーマンショックだった。経済成長だけを求める資本主義から地球を守り、人類の公正を求める新しい資本主義への転換が始まった。これが持続可能な社会の新たな価値観である。
アメリカやヨーロッパの企業はここで方向転換を始めた。ところが日本の企業は新しい価値観の始まりだという認識をせずにコスト削減を始める。ターゲットになったのが人件費で、2000年に世界2位だった日本の人件費が、去年28位まで落ちた。高度人材ランキング、デジタルランキング、競争力ランキング、 全て、韓国、台湾、シンガポールに日本は抜かれた。日本の給料は、この20年間で世界2位から26位に落ちた。
1989年ソビエト連邦が崩壊して資本主義が勝利した。世界の資本主義化が一気にグローバル化する。この新自由主義は、市場の競争を全て自由競争に任せ、強いものが生き残ることで成長する。イギリスでは国営企業が民営化され社会保障制度が破壊した。ヨーロッパで新自由主義をとったのはイギリスだけで、特に北欧は新自由主義をとらなかった。北欧は社会福祉主義により福祉国家を目指す道をとった。持続可能な資本主義とは、限りない拡大・成長を目指す社会からの転換で、具体的に一つ目は地球や自然が再生可能な範囲にとどめて、生態系のバランスを取り戻すことである。地球の生態系を取り戻すために、何とかしなければいけない。 二つ目は格差リスクである、人々の社会的不安定を起こさない範囲に格差をとどめて、価値観にあった幸せを感じられることである。日本の学者であった宇沢弘文氏を紹介する。新自由主義を唱えたアメリカの経済学者フリードマンと世界で真っ向から対立した学者で、スタンフォード大学、そしてシカゴ大学で教授を務めた。宇沢教授は、「社会的共通資本」があり市場に任せる分野と市場ではなく社会が支える分野があるとし、社会的共通資本を3つあげている。1つが自然資本である大気、水、森林、河川、海洋。2つ目が、社会資本である道路、交通機関、上下水道電気。そして3つ目が、制度資本である教育、医療・福祉、金融、司法である。これらは社会が支えるべき社会的共通資本である。
 今世界で言われているサステナビリティとは何か。
従来、経済価値の下に環境価値と社会価値があると言われてきた。今、日本社会で言われているのは第2世代であり、経済価値、環境価値、社会価値が三つ巴になっている。これがもう古い。今、欧米では、サステナビリティというのは、環境価値が親亀、社会価値が子亀、企業社会(企業価値、経済価値)は孫亀だと言っている。環境の親がこけたら経済もこける、子亀である社会価値がこけたら企業もこける。 3つ巴ではなく3段重ねだと欧米で言われている。
これを宇沢教授の議論と合わせると、環境価値、社会価値は社会的共通資本で、その上に 企業(私的資本)がのっている。企業活動の構造的変革が求められている。
具体的に今何が起きてきたか。投資家や金融機関は新しい価値で企業を評価するようになった。財務諸表で企業を評価する時代は終わった。これまで、企業を損益計算書、バランスシート、キャッシュフローで評価をしてきたが、これからは、企業の成長性を環境、社会、ガバナンス(企業統治)の視点で評価する。 機関投資家や金融機関は、企業の個別評価をESG経営の進捗度合いで評価をするようになり、これが投資家の新しい価値観の始まりになる。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は国民年金とか厚生年金を預かり運用している機関だが、約200兆円を動かし、年金の投資家としては世界最大で投資家としても世界有数である。この日本のGPIFは、2015年に国連が定めたPRIという投資原則に署名した。企業はSDGsに取り組み、ESG投資に対してリターンを出さないとGPIFは投資しない。ESG経営は、上場企業だけの問題でなくサプライチェーンで報告が求められる。環境、人権、労働問題、ガバナンスで上場企業と取引がある下請けから協力会社に全部影響が出てくる。調達先にさかのぼり原材料まで問題がないことを証明しないといけない。
今、八方良しの時代が来た。お客様良し、調達先良し、株主良し、社会良し、 社員良し、地球良し、そして我が社良し、そして未来よし、である。未来を付け加えて、すべてのステークホルダーが共感できる社会 になっていかなければいけない。
持続可能な資本主義、新たな価値観に対して我々はどうしていったらいいのか。
SDGsが示しているのは、100年に1度の産業革命以来の根本的なパラダイムシフトが起きているということである。二十数年間、世界から置いていかれていた日本が一気に追いつくラストチャンスが今来ている。日本は今こそ持続可能な価値創造型の産業に転換するラストチャンスである。
工業化社会が1900年代まで続いた。日本企業は この工業化社会の成功体験から忘れられなかった。ところが、世の中は21世紀前半から情報化社会に移った。ついにAIを伴う新たな価値社会に突入した。今、新たな社会に向けて企業は何をしなければならないか。それは、我が社の将来のリスクを把握すること、新しい価値観の中で我が社にどんなリスクがあるか、そして我が社の将来の成長分野をどこにするかを明確にすることである。価値とは「企業が提供する価値」具体的には「顧客の期待を効率的に満たすこと」であり、今期待する価値が変わってきた。昔、価値と思われたものが今は価値がなくなり、 昔、評価されなかったことが今は新しい価値になった。競争の優位性とは、「オリジナリティ」と「ユニークネス」である。単能的なものからパッケージ的なもの、要するに総合的に提案するものに変わっている。
 これからはサプライチェーンの時代が来る。ただし、ロジスティックスをトータルでどうやって提案していくか。デジタルが避けて通れない。業務効果と戦略の違いについてだが、業務効果とは、生産性や品質、スピードを追求するためのツール・手法であり、業務改革を真似するのは容易である。しかし戦略は、他社とは異なる価値を提供することであり、独自性と価値の高い自社のポジショニングの創造はなかなか真似ができない。 日本の企業はこの30年間、業務効果である効率に熱心で戦略をおろそかにしてきた。日本の経営者は価値の変化に鈍感だった。1979年に「ジャパンアズナンバーワン」と日本企業がもてはやされたが、1980年にトフラーが「第三の波」という本、「工業化社会の限界と情報化社会の青写真」という本が出されている。今から33年前にリモートワークの時代が来るとトフラーは第三の波の中に書いている。工業化社会から情報化社会、そしてサスティナビティな社会に向けて、我々に求められている価値観はなにか、AIを活用したサスティナブルな人の幸せをどうやって作っていくか、問われている。
長野県の会社が、これからはEV自動車の時代が来るとEVバッテリーの評価テスターとEVモーターの性能評価機器を開発した。世界中から注文が殺到して、長野県上田市の小さな会社が、売り上げ344億円、経常利益73億円の優良企業になった。脱炭素のEV自動車を作るにはバッテリーが必要である。モーターが必要である。バッテリーやモーターを評価する評価機器が必要になる。これがGXグリーントランスフォメーションである。DXはみんな取り組んでいる。しかし、バックオフィスの業務改善だと考えていることが違っている。DXとは何か。モノとコトの融合である。TOTOは便座を販売した後も、毎月、健康状態のデータをとるサービスを提供している。これがDX(デジタルトランスフォーメーション)の本質である。
 昨日まで許されたことが、明日には社会から急弾される。ウミガメの鼻にストローが刺さった映像が流れた瞬間に プラスチックストローが悪になった。プラスチックストローメーカーからすると晴天の霹靂である。突然あなたの会社は悪だと社会から言われたらどうするか。昨日まで通用したビジネスモデルが明日には陳腐化する。これは3年後か5年後かわからないが、ビジネスモデルに永久はない。
SDGsによる成長分野の最大はモビリティであり、次に医療、健康、福祉。3番目はエネルギーである。モビリティ産業に何が起きているか。2022年のEV自動車の販売比率のデータで、アメリカ5.6%、ヨーロッパ10.6%、中国14%、日本0.9%、中国は去年20%を超えた。EV化よりもっと怖いのは、車のソフト化である。テスラ車は自動的にアップデートされている。
 ホンダ、ソニーの合弁会社ができた。自動運転は2030年にはレベル4が普通になる。1970年にアメリカのカリフォルニア州で自動車メーカーが絶対に達成不可能だという大気浄化法であるマスキー法ができた。これを世界で最初に1972年ホンダのCVCCエンジンがクリアした。ホンダが二輪メーカーから世界の自動車メーカーになった。昨年の下半期に中国の元々バッテリーメーカーだったBYDがテスラを抜いて世界最大のEV自動車メーカーになった。企業に求められるのは成長ストーリーで、何をもって社会から必要とされて役立つのか。我が社の価値創造ストーリーは何か。 そのために、まず我が社は何のために存在するのか。パーパスを明確にしなければいけない。我が社のコアコンピタンスは何か。何をもって社会から必要とされるものを創造するのか。そして価値創造モデル、ビジネスモデルは何か。2030年ありたい姿を描く。そしてそのバックキャスティングを行う。それに対して今のフォアキャスティングを行う。そうするとギャップが見えてくる。ありたい姿と現状のギャップが我が社の課題である。この課題を目標にすることをSDGs活動ではマテリアリティ(重点目標)の設定であり、これに対していつまでに達成するかを決めることを KGI・KPIという。これをステークホルダーに対してコミットすることがSDGsの取り組みであり、これがない企業は意味がない。

 パーパスをどうやって実現していくか。経営戦略としてターゲットをどう想定するか。コアコンピタンスによりバリューをどのように創造するか。ケーパビリティをどう培いどう活かしていくか、プロフィットをどう得ていくか、などを明確にしていく。これがSDGsの戦略になっていく。皆に愛されたいと思った会社は誰からも相手にされない。これからはこの人たちに愛されたいとターゲットを決めることである。
 市民の期待するバリューとはなにか。気候変動に貢献する事業領域とは何か。カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに関連するビジネスとは何か。人の命に貢献する事業領域はヘルスケア、メディカルケア、ウェルフェアなどの分野である。
企業はどうしていけばいいのか。モビリティ産業の脱炭素化は産業構造を変えていく。
東海3県が2030年にものづくり王国と言われているかどうか。東海地域の部品メーカーには洋上風力発電のメーカーを新しい取引先として開拓しなさいと勧めている。ネジや歯車を使わない産業はない。モビリティやエネルギーの主役の交代の問題を自社としてどうするかである。
 アメリカのダイリーという会社は1980年代まで工具とか自動車部品メーカーであったが、M&Aを270件行い、計測機器、医療診断機、バイオ医薬品製造機器、デジタルによる遠隔診断の技術を応用する成長分野を買収して医療機器、診断機器世界最大手になった。時価総額25兆円、20年間で425倍、営業利益率9%から27%の会社になった。
企業の資本は、昔は4つと言われていたが10年ほど前に2つ増えて6つになった。自然資本と社会関係資本が増えた。社会関係資本は社会の人々たちのつながりとネットワークとブランディングである。消費者、取引先、社員、投資家、地域社会からファンとして愛する人たちが多いことをブランディングという。無印良品は今やブランドになったが、社会関係資本が多いということになる。消費者が気づいていない潜在的な需要や、取引先が気づいていない課題を気がついて提案する。これが企業の提案である。そのためには企業内人間をなくし社員の社会感度を高めるために外部体験をさせることである。
 企業はNPOとどう関われば良いのか。新しい資本主義とは何か。GDP国内総生産で幸せを測ることが本当に正しいのか。GDPが我々の幸せの指標なのか。今、新たに指標として例えばGPIであり、これは経済的、社会的、環境的の3つ、又BLIという物差しが出てきた。 BLIによる日本の評価は安全と健康状態が高いが、この健康状態は寿命のことであり寿命が長いので良い点数になった。日本の評価が低いのは、市民参加であり、社会とのつながり、仕事と生活、主観的幸せである。
 持続可能な社会は人々が安心して暮らせることであるとすると、地域に良質な雇用があること。次に、福祉、医療、教育、環境、インフラがきちんと整備されていること。その整備には、行政と企業と教育と市民の関わりによって可能になり、市民と企業が重なる領域がある。そこが協働である。
企業とNPOの違いは何か。企業は社会課題を解決するソリューションを提供することで価値創造ストーリーを描き、NPOは社会課題を放っておけないと取り組んで解決することで当事者を取り残さないことである。企業とNPOの違いはステークホルダーだけで見ていくと、たった1つしか違わない。企業は株主だが NPOは支援者、会員である。ほとんど一緒だが、大きな違いもある。顧客に支払い能力があるのは企業だが、NPOの相手してる顧客には支払い能力がない。この違いである。企業とNPOとの関係で理解すべきは、企業の社会貢献は慈善活動や施しではない投資戦略の1つであること。投資である以上、マルチステークホルダーのどこかにリターンが必須である。リターンがあるからやる。NPOは自社で出来ない社会課題の解決の有力なパートナーだということである。
 例えば環境NGOのWWFは世界の大手と協働している。WWFは植林に取り組んでいる。企業はWWFと組んでWWFの植林の森が吸収したCO2を自社効果としてCO2排出をゼロにする。NGOと企業の協働だがリターンがある。日本の最大の課題は何か。少子化の例で言うとまず何が問題か。非正規雇用、賃金問題であり、この問題を解決せずには少子化問題の解決にはならない。出産、育児、育休やその後の支援、家庭と仕事の両立、これが働き方改革。そして子育て、教育問題。公立小学校、中学校、公立高校、高校だけで塾に行かないと、なぜ一流大学に入れないのか。親の介護、介護離職という問題。最後は自身の老後年金問題。このライフサイクルのトータルの問題を解決しなかったら、少子化問題は解決しない。
企業の人事部が抱えている悩みをNPOがどうやってサポートするか。例えば、育児問題に取り組む団体には、赤ちゃんの育児相談や産後うつの悩みを聞くホットラインを会社と契約して事業化する。社員は会社に内緒で相談することができる。フリースクール等の団体は、不登校や引きこもり相談などを同じように行い企業の人事部と契約して社員の子どもの不登校の悩みの相談にのる。介護問題は介護系のNPOが介護離職を防ぐために社員の相談などをホットラインで聞く。こういうビジネスシーズ、チャンスがNPOにはある。
ある会社では外国人の子ども達のスクールをやっている。国際交流協会と連携協働して、社員を対象に指導員育成を行っている。6か月かけて指導員を養成して3か月かけて、外国人の子どもたちに教育を行い、子どもたちは小学校に入学する。会社が雇っている外国人労働者の子どもたちの支援を行うことで外国人の親が安心して働くことができる。リターンがある。
 変革期こそ、企業と自分のパーパス(志)をぜひ明確化してほしい。そして起こるであろう市民生活の劇的変化に対して、企業や自分やNPOは何をしていくのが問われている。最後に、「 変革を怠るものに未来はない。挑戦するリスクより、挑戦しないリスクの方大きい」の言葉をお贈りして私の話を終わる。

フロア質問:今の話を上場企業や大企業の話だとしてしまう中小企業があるのではないか。
戸成氏:中小企業の経営者の方が社員と近い。自社の社員が生き生きとして働くには、社長がどういうビジョンを持って、どういう会社にしたいか。我が社はどういう風に成長し、社会に役に立つ会社にするのか。社員にその一員として一緒に取り組もうという熱いメッセージを直接届けられるのは、中小企業の経営である。中小企業の経営者は直接熱く語れる。
今の社会の変化は突きつけられた課題であり、10年後自分の会社がどうなっているかを一度ちゃんと真剣に考えた方がいい、ということである。

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