「一尾の『たい焼き』に気づかされた」有限会社わらしべ
「一尾の「たい焼き」に気づかされた」有限会社わらしべ
「三重に美味しい『たい焼き』があるんだよ。知っている?」
今回の取材はこの一言から始まりました。本社・本店を三重県玉城町におく有限会社わらしべ。北海道、東京、長野、東海に27の店舗を持つ「たい焼き」専門店です。なんと、「5秒に1枚」たい焼きが売れているとか。「たい焼き×SDGs」について代表取締役社長の福田圭さんにお聞きしました。
■「たいやき わらしべ」誕生
「父の好物が『たい焼き』だったんです。」
福田さんのお父さまは自動車部品のベアリング工場を経営されていました。しかし、2008年のリーマンショックの影響を受け受注が減り、従業員の新たな仕事として「たい焼き屋」をしようと決断。2009年、工場の前の小さな小屋でたい焼き屋を開業、初代社長になりました。お父さまが大切にしていたことは「三方よし」。「売り手よし、買い手よし、世間よし」を商いの方針とし、「味」「品質」「お客様の幸福(口福)」に責任をもつ、こだわりの「たい焼き屋」を経営されました。現社長の圭さんもお父さんの思いや経営方針をしっかり受け継ぎ、新たな発想やアイデアを取り入れながら様々な事業を展開されています。創業当時は玉城町の1店舗でしたが、今では全国に27のフランチャイズ店をもち、そのオーナーは皆、「わらしべ たいやき」の大ファン。「わらしべのたい焼きを自分の地域で作りたい、販売したい。」という思いあふれるオーナーが各地域でオーナーのアイデアあふれる「たい焼き」を提供しています。
「弊社のたい焼きを食べた人が『自分の地域でわらしべのたい焼きのお店をもちたい』とオーナーになってくれています。稚内や旭川、長野など三重から遠い場所にお店があるのは、そんな思いを持った方がお店をつくってくれたからです。弊社はオーナーの思いやアイデアを大切にしています。「わらしべ」のイメージやグランドメニューの提供など守っていただかないといけないこともありますが、とても自由度の高いフランチャイズを展開しています。独自のメニューをもち、独自のキャンペーンをしています。自分のお店に愛着をもって、お店を楽しく長く続けていただきたい。」
■わらしべのたい焼きの「こだわり」
「父がこだわっていたのは『おいしさ』です。おいしさを追求しています。たい焼きの皮の材料は三重県産の「あやひかり」という小麦の中力粉を使っています。外はパリッとして中はモチモチ、冷めてもモチモチして美味しいです。伊勢うどんと同じ小麦です。あんがなくても皮だけでも美味しい。「あんなしたいやき」というメニューも出しています。20種類以上の小麦を試してこれに決まりました。父のこだわりです。
あんは十勝産の小豆とてんさい糖で作っています。当初はてんさい糖を使っていなかったのですが、健康のために、血糖値があがらないようにと使うようになりました。店舗数が少なかった頃は地元のあん製造業者で作っていただいていたのですが、店舗が増え大量にあんを生産するために、今は千葉にある老舗の業者に作っていただいています。
鉄板にもこだわりがあります。父が開発した「タイマーシステム」をすべてのお店が使っています。多くのお客さまが5~10枚のたい焼きを購入してくださいます。焼きたてをお渡ししようとするとお待ちいただくことになります。焼き加減もよく、なるべくお待たせしないように、鉄板に音楽付きタイマーをつけ、焼き時間を音楽で知らせるようになっています。そうすると焼いている間に他の作業ができます。父の自信作です。たい焼きの中身は、粒あん以外にもプリン、伊勢社など本店だけで8種類あります。お惣菜メニューのベーコンチーズ、季節のもの、真っ黒い皮のたい焼きなど。スタッフやオーナーのアイデアでメニューを開発しています。お客さんからどれも美味しいと言われるのでメニューがどんどん増えています。でもやっぱり一番人気は粒あんです。」
「いくつかたい焼きが並んでいて、自社のたい焼きを見分けることができますか?」という質問をすると、
「もちろんです。皮の色が違います。ウロコがたっています。ウロコに気泡があり穴があいています。おなかがふっくらしています。尾っぽにもあんがはいっています。本物の鯛のように見えませんか。」
■「たい焼き先生」として次世代に関わる
『「SBP(Social Business Project)をご存知ですか。高校生が地域と関わりながら地域の課題をビジネス手法で解決しようという取組みです。相可高校の「高校生レストラン」はご存知ですよね。その活動を生みだした岸川先生が代表として進めている事業です。
プロジェクトの一つに愛知県高浜市の高浜高校の高校生による「Sの絆焼き」と名付けた「たい焼き型」の製造・販売の取組みがあります。地元の鬼瓦職人と自動車部品加工企業が製作したものです。その金型を使って地元のバスケットチームと連携した「Sの絆・タツヲ焼き」。タツヲというのは地元のバスケットリーグのキャラクターです。地元バスケットチームがホームゲームをする際に「Sの絆・タツヲ焼き」を販売します。売上げを地元の子ども食堂に寄付をしたり、地元の子どもたちをバスケットの試合に招待をしたりしています。昨年は、大阪の特性(ハンディ)のある人の就労支援をしているNPOとNPOのキャラクターである「ゆめくじら」をかたどった焼き型を作り、たい焼き「ゆめくじら」を販売しました。私たちは高浜高校の高校生に焼き方をお伝えして、美味しいたい焼きを作ってもらえるようにサポートしています。「たい焼き先生」として関わらせていただいています。全国で地域活性化のために、地域のキャラクター型で作られた「○○焼き」が販売されています。「地域らしい○○焼き」の生産・販売の仕組みづくり、地域活性化のお手伝いをしています。
店舗では12歳以下のお子さん限定で、たい焼きを購入いただいたら、塗り絵をプレゼントして、塗り絵をして持参いただいたらたい焼き1枚と交換する、ということもしています。パンダの塗り絵、可愛いんです。店舗に飾っています。たい焼きで「出会い」や「つながり」を作っています。
■なぜ「わらしべ」?
「昔話『わらしべ長者』の『わらしべ』です。最初は1本のわらしか持っていなかったのに、出会った人の欲しいものや必要なものと物々交換をして、しているうちに最後には家をもつお金持ちになった、という話です。『人に望まれるものを提供して喜んでいただき、その喜びを自分のものとして自分も豊かになるといった商いをしたい。』そういう思いで名づけました。あんなしたい焼きやプリンたい焼きはお客さまの要望をもとに開発された商品なんです。お客さまの「こんなたい焼き食べてみたい!」「これ美味しかったから作り続けて!」という声を大切にして、たい焼きを焼き続けます。」
■取材を終えて
有限会社わらしべは、三重県のSDGs推進パートナーに登録しています。
「お世話になっている銀行から紹介をされ、登録の申請をしました。とてもおこがましく感じていたのですが、協力できることがあれば協力しようという思いでした。」
わらしべのたい焼きは、「三重県産の小麦、十勝産の小豆、てんさい糖で作られている」「あんは千葉県の老舗の業者が製造している」など、どこのどんな材料で誰がどこでどのように作っているのかがわかります。販売しているスタッフの顔も見えています。フランチャイズ店のオーナーとのコミュニケーションもしっかり図っています。お客さまの声をとても大切にしています。お客様の健康を考えて、てんさい糖を使うなど材料やメニューにこだわった商品開発をされています。また、高校生や大学生、地域の小学生と連携をし、「地域活性化支援」「ハンディのある人の就労支援」「子ども支援」といった取組みを「たい焼きの先生」として支えています。
しかし、SDGsを達成するために、持続可能な社会をつくるためにと商品開発や事業展開をしたわけではなく、「おいしく」「健康によく」「商売が継続するために」「社員が楽しく」「お客さまが喜んで」「次世代や未来を想って」というキーワードを大切にして事業を実施したらSDGsにつながっていた、といいます。
社会、経済、環境、そして未来を考えて作られている「わらしべのたい焼き」。
一尾のたい焼きから、持続可能な社会の実現のために大切こと、必要なことを気づかされました。