「あられ、大好き!野田あられのこだわりSDGs」野田 恵子氏(株式会社野田あられ 代表取締役)

あられ、大好き!野田あられのこだわりSDGs
野田 恵子氏(株式会社野田あられ 代表取締役) 

野田あられヒストリー

野田 恵子氏

昭和9年に東京で創業しました。当社の初代、祖父は明治生まれ。出身は三重県津市ですが、東京のお煎餅屋さんに丁稚奉公に行っていました。その後結婚をして、東京の巣鴨にお店を構え、ずっと東京で商売をする予定だったのですが、戦争がひどくなり、津市の親戚が疎開をすすめ、家族全員で引っ越しました。そして、当時は野田商店という屋号で、親戚と家族でお煎餅屋さんを家業にしました。関東は煎餅ですが、関西はあられ文化ですので田舎あられをメインにつくっていました。最初は家の一角に会議机2本ぐらいおいて始めたそうです。昭和56年頃に自宅の応接間を店舗に変えて、その頃まだお客さんは少なかったのですが、口コミでだんだん増えてきて、車を停める場所がない、どうしよう、ということで、今の場所に移りました。店舗だけではなく、工場もここに建てました。
私は3代目、10年前に亡くなった主人が2代目、もう少ししたら娘が4代目になる予定です。

野田あられのこだわり

あられの原料は滋賀県産のもち米を使っています。三重県産、福井県産、岐阜県産のもち米で試しにあられを作ってみましたが、食感や美味しさから、今は滋賀県産の2種類のもち米をブレンドしたものに落ち着いています。農協と契約栽培でつくってもらい、精米したてのものを仕入れています。  
三重県のもち米は粘りが少なく、同じ品種を三重県で栽培しても滋賀と同じものができませんでした。土の違い、寒暖差や水によって変わるようです。
あられをつくるのに約1週間かかります。餅をついて、2日間冷蔵庫で固めて、3日目に形に切ります。それから乾燥機に1時間かけてねかせ、次の日は2時間かけてねかせて、その次の日に水分計で水分を測ります。季節によって違いますが、水分が約21~22%になったら焼き上げ、味付けをし、包装をします。豆やエビのあられはお米をつくときに入れていますが、味は焼いた後につけています。最初は田舎あられの塩と醤油だけだったのですが、今40種類くらい。チーズ&ペッパー、梅昆布が人気です。
 従業員は店舗の販売スタッフを含めると約20名。あられのパッケージもすべて手作業で行っています。機械を使うほうが効率がよいかと思いましたが、味の種類が多いため、機械を洗わないとパッケージに味が残ってしまいます。機械を洗うのが大変で、結局手作業が1番早い。工場には3~4名のスタッフがいます。大量生産はできません。先代のおしえは、「ていねいな仕事」です。

祖父の時代はあられの味はシンプルでした。2種類のみ、全く油気のない海苔味だったそうです。2代目のときに、年配のお客さんがほとんどだったので、若い人向けにサラダ味をつくりました。なんと「ヤングサラダ味」というネーミングです。私の代になってから、さらにいろいろな味のあられがつくられました。従業員が旅行で食べたお菓子や料理からヒントを得て、「こんな味のあられを作ってみたい」とアイデアが出されることもあります。例えば、京都の七味で作ってみたら、と提案があり、作ってみたら美味しかったので商品化しました。業者からの提案もあります。採用されたのはごぼう味。もともと「ごぼう味」は作りたかったので業者に探してもらいました。

あられの食感を大切にしています。石釜で焼くとサクッとした食感が残ります。あられを焼くためには3段階の工程があり、焼き色を付ける前に余熱で肉上げをする際に窯焼きをしています。
 あと、もち米のつきかたも大量に生産しているあられとは違っています。もち米を2分間、底までついています。餅のきめの細かさやのびがちがいます。
 野田あられは、お菓子売り場のあられコーナーにはなく、レジ横や地元商品コーナーにおいていただいています。

あられづくりがしたかった

昔いただいたあられがとても美味しかったんです。割いたイカが練りこまれているイカ味のあられ。それからあられが作りたいと思うようになりました。でもまさか自分が作ることになるとは思っていませんでした。
 でも、結婚してからすぐは店番をしていました。その後近所の方がお店の仕事に来てくださるようになって、工場に入るようにもなりました。お店番と工場での作業をしながら、「今度はどんな味のあられをつくろうか」といつも考えていました。
社長になって10年です。コロナが流行していた時期はとても大変でした。また、時代の変化もあり、お歳暮やお中元、企業が挨拶まわりの際にお土産と言った使い方もなくなってきています。コロナ禍のあと葬儀も家族葬が多くなり、会葬御礼で使うことも少なくなってしまいました。なかなか大変な時代です。
インバウンドとよく言われますが、津市には海外のお客さんはあまり来ないんです。最近、近くの農業を営んでいらっしゃる方(辻農園https://tarafuku.org/)が古民家を改造してゲストハウスのようなものを作って地域を盛り上げようと活動をし始めています。海外の人にも来ていただくために、農水省の補助金をえて、英会話のレッスンも1週間に一度行っています。私も参加し、仕事に結びつく会話や、案内や接待の方法など旅行に来られた海外の方に応えられる英会話を学んでいます。

あられとSDGs

SDGsと言われると、とても広い概念なので難しいのですが、当社で取り組んでいることとしては、廃棄するものの再利用でしょうか。下津醤油(https://www.kyu-boshi.com/)さんが生産・販売している伊勢芋の皮を利用したかりんとうに、当社の粉が使えないかと検討しています。あられの生地は円盤をつかって型取りをし、型どりをした生地をリンゴの皮のように9センチ幅に切ります。その際に切れ端がでてしまい、これまでは廃棄していたのですが、月に80,000円も費用がかかり、食べることができるのにもったいないなと。エビや黒豆が混ざった生地はアレルギーの方が見えるので混ざらないように廃棄していますが、そうでないものは、一旦乾かして粉砕機で粉にして使えないかと考えています。かりんとうには3割くらい入れることができるのではないかなと開発中です。食感が少し軽くなるんですよ。また、津市にあるBRIXTON(ブリクストン)というパン屋さんに、当社の粉を入れたパンを試作してもらえないか、声をかけています。娘が30%ほどもち米の粉を入れてパンを作ってみたら、米粉パンよりもう少しもちもちした食感で結構美味しかったんです。他にもパスタスタジアムよろこば食堂(https://www.instagram.com/yorokoba.shokudou/)さんのピザの生地にも使っていただけないかと考えました。
これまで廃棄していたおもち状態のあられの切れ端の部分を乾燥して粉砕機で粉にしてかりんとうやピザの生地に使う。SDGsですよね。よろこば食堂さん、辻農園さんと三社で農水省の補助金事業の中で何かしたいと考えています。

コメ不足とあられ

平成4年に米不足になりました。価格が一俵50,000円までになりました。でも一年で終わったので値上げをせずにじっと我慢していました。当社のもち米は少し高価なものを使っていますので、一表20,000円くらいです。それが50,000円になってしまった。今年もそのような状況です。「2年後には価格は落ち着くだろうが、価格が下がることはない」とお米屋さんが話しています。
農家にとっては経費などを考えると適正な価格だと思います。けれど、消費者は安くしてほしいと思う。そうすると米を作る人がいなくなります。人件費、電気代、ガス代などを考えるとこれからどうなるのかと思います。少子高齢化社会のなかで、あられは高齢者向けには良い商品だと思うのですが、人口減少のなかでどうなっていくのか。日本人であられが苦手な人はあまりいないのですが、昔は100円で買えたのにという高齢の方が多く、500円にするとなると売れなくなります。2022年に値上げをしましたが、値上げ幅が少なかったのでお客さんから高くなったとは言われませんでした。今、お客さんの数は増えていますが、販売量が減っています。あられはお使い物に使われますが、価格が高くなると自分の家で食べるものは安いものになります。でも子どものおやつには、産地がわかる、誰がどのように作っているかがわかる、安心安全なものを選んでほしいと思っています。

地域とともにあるあられ

津子どもNPOサポートセンターさんにはいつも買っていただいています。津市内にあるみどり自由学園が第2土曜日に子ども食堂をしているので、あられの試作品や、少し欠けたり、割れたりしたあられなどを寄付しています。
クリスマスの時期は津市内の外国人住民が多い地域で、サンタクロースの恰好をして「クリスマスプレゼント」をお渡しするというイベントに参加しています。当社は「あられ」をプレゼントしています。外国の人たちにあられは結構喜ばれます。
石川の震災の時には、被災されてすぐの食べ物に困っている時期に銀行や他の企業が物資を送る時に一緒に送っていただいたりしました。東北の震災の時にも送りました。昨年8月に石川県七尾市に行き、津市の地元企業の社長が作っているグループ「強烈」の炊き出し活動に参加し、公民館で生活している子どもたちにあられを持っていきました。できることをするというスタンスです。

4代目は娘さん

娘は小さい時から工場に入って、あられが作られる現場を見て育ちました。大学を卒業して大阪にいたのですが、2代目が亡くなって私の手伝いをしようと22歳で津市に戻ってきました。今31歳ですが、その間に結婚をして出産をして孫ができました。とても忙しい毎日ですが、私の仕事も徐々に覚えてくれています。請求書の作成や発行など事務作業をしてくれているのでとても助かっています。若い人のセンスを生かして、あられのパッケージの提案もしてくれます。が、あまりおしゃれなパッケージにしても高齢のお客さんが多いのでそこそこにですけど(笑)。
私も娘もあられづくりがとても好きです。この仕事は楽しいです。現場仕事が大好きです。餅つきの仕込みを久しぶりにしましたが、昔のようにテキパキできないけれど楽しい!三重県津市のこだわり、野田あられ、ぜひ食べてください!

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