
「食と農と暮らしのありかた みんなの食卓に揃えたい。近場で育った100種類の野菜とコメ…。」寺園 風 氏(株式会社松風カンパニー代表取締役)
食と農と暮らしのありかた
みんなの食卓に揃えたい。近場で育った100種類の野菜とコメ…。
寺園 風 氏(株式会社松風カンパニー代表取締役)
農との出会い、いなべとの出会い

中学校の時に、多くの人は高校や大学に進学して就職しますが、将来を想像してみて、あまり楽しそうじゃないなと思いました。自然が好きだったのと、その当時テレビで放映していたDASH村のような暮らしがすごくかっこいいな、面白いなと思ったんです。自分でいろいろなものを作って揃えて暮らしを営んでいくことに興味を持ちました。農業をやってみたいなと思って愛知県の農業高校に通いました。卒業した頃にインドに興味が出てきて一周したのですが、インドに行ったら、東南アジア、チベットにも行きたくなり、2年ぐらいバックパッカーでアジアを旅していました。日本で何かをやろうという気持ちをもって帰ってきましたが、すぐにはそれが見つからなくて何も進まない状態でフラフラしていました。名古屋市北区で半農半カフェをしている方に出会って、20歳から25歳まではそのカフェで働きながら、半農半カフェ的な暮らしをしていました。その頃、松阪の嬉野町に機械などをあまり使わずに農業をされている方がいらっしゃることを知って、そこで自然農を教えてもらいました。
その後、自分がイメージしている環境で農業をするために独立したいと思って、名古屋から近い場所を探していたんです。地図を見ていて「八風街道」という文字を見つけて、八が末広がり、風は自分の名前が風なので「ここが良いな」と感じました。そして辰年生まれなんですが、いなべには竜ケ岳という山もあり、「いなべに行って農業をしよう」と決めました。知り合いも一人いましたので。奥さんはここでフライベッカーサヤというパン屋さんをしています。ドイツに留学に行っていた頃に、パンとワインの組み合わせにはまったらしいです。日本に帰ってきたら、お酒は手に入るけれど美味しいパンが見つからなくて、自分で焼こうと思い、またドイツに修行に行ったそうです。日本に帰ってきてパン屋さんを始めようかと考えていた時に、僕が働いていた名古屋のカフェのイベントで出逢いました。その頃、三重県で自分が育てた大豆や麦を収穫して醤油を作ろうと「醤油大作戦」と名付けた取組みをしていたんです。彼女はパンを作りますが、原料から育てることは知らなくて、大豆と小麦を育てて加工して発酵したものがお醤油になることにとても興味をもったんです。先に紹介した嬉野町で自然農をされている方の収穫イベントにも来て、農業的なところに魅力を感じたようです。そして今に至っています。
上木食堂と八風農園
いなべで農業をはじめてから2年目ぐらいの頃に、阿下喜地区にある古い民家を使わないかという話があったのですが、「お店が欲しいな、あったらいいな、でも、やれないな」と迷っていました。その時に、野菜を卸していた名古屋のお店の店長から「田舎に興味がある」と聞いて、店長(松本さん)に「いなべでお店をしませんか」と声をかけたら「行きます!」と言ってくれました。彼もいなべに移住して「上木食堂」を始めることになりました。上木食堂で扱っている食材は、ほとんどが、うちの農園のものですが、阿下喜温泉がリニューアルして食堂の規模が大きくなったので材料を揃えるのが難しくなってきました。


季節の野菜が食卓をかざる
八風農園のテーマは「みんなの食卓をそろえる」です。まずは野菜から始めました。野菜は年間100種類ぐらいをつくっています。季節ごとに採れる野菜を売っているという感じです。お米も作っています。去年から田んぼを広げ、お米の生産を拡大しました。もう少し増やしていきたいと思っています。奥さんがパン屋をしているので小麦も少し作っています。卵は趣味の延長程度ですが少し販売もしています。
野菜は奥さんのパン屋さんで販売したり、個人で購入したい方に野菜セットをつくって販売しています。個人会員は30名~40名くらいで名古屋の方が多いです。毎週名古屋に野菜を届けています。お店に卸すものと個人用のセットのものです。卸先は名古屋市内に10か所くらいで、カフェやレストラン、美容室にも卸しています。オーガニックの食品を販売しているお店にも卸しています。
三重県内では、松阪市にある株式会社アライブが「雨ニモマケズ」という無農薬野菜を集めて販売・配達するサービスを行っているので、そちらにも卸しています。三重県内のイオンの地産コーナーに置いています。あとは上木食堂、フレンチのお店ノール、このパン屋に置いているのを買ってもらっています。採れた野菜の多くは名古屋に持っていって、販売先の多くも名古屋のため、地元で新しい販売先を開拓する労力が今は割けない状況です。

いなべの風景
畑や田んぼはいなべ市内に点在しています。全部借りています。地元の人は「どうぞ、どうぞ使ってください」という感じです。山の中に田んぼ2枚があるのですが、山沿いには鹿がいて、鹿が稲を食べに田んぼに入って1枚踏み潰してしまいました。畑にも来ているようです。
名古屋からいなべや藤原に移住する人たちは増えているみたいです。移住してきた人たちとの繋がりはあります。ただ最近移住してきた人たちはあまり知らなくて、交流は多くはないです。今、社員は松風カンパニー全体では50人弱です。名古屋から来て上木食堂をいっしょに始めた松本さんが取締役になって飲食などの経営部門を管理しています。僕は、こういうことがしたいなという思想的なことを考えて、したいことができるスタイルを育てる役回りです。会社を大きくしたいとか、強くしたいとかはあまり考えていなくて、面白そうなことで、やりたいと思ったことをしています。
実は、僕自身は今、野菜づくりに少し飽きてきていて、最初はこんな野菜を売れるかなと思った時期もあったのですが、ある程度買っていただける野菜が1年を通じて揃えられるようになったら、興味がなくなってしまったんです。逆にお米づくりが3年前から少し面白くなってきたので増やしたいなと思っています。少し前までは田植えも稲刈りも委託していました。本格的にお米づくりをしようと決めたのですが、稲作には機械が必要になります。トラクターはあったので、昨年、田植え機とコンバインを買いました。米づくりも基本のスタイルは無農薬で、肥料も使っていません。そのため収穫はあるのですが多くはないです。扱っている品種はアサヒというコシヒカリやササニシキの2~3代ぐらい前の祖先の一つです。三重県から西の地域で広く作られていたそうです。2、3年前にその籾種を見つけて購入しました。農業としての野菜づくりは今のスタイルだとなかなか黒字にするのが難しいですが、米作りには可能性を感じて、いま、力を入れようとしているところです。
そして、未知数なのがこの山なんです。この有り余る山の土地で何かをしたいんです。使われていない山の森林を開拓して牛を飼いたいな、なんて思っています。そしてパン用のバターやチーズをつくりたいです。
