「桃太郎のおにぎり?」株式会社おにぎりの桃太郎
「桃太郎のおにぎり?」株式会社おにぎりの桃太郎
「なんで桃太郎とおにぎりなんだろう?」
株式会社おにぎりの桃太郎は、三重県四日市市を中心に展開する「おにぎり屋チェーン」です。現在四日市市及び近郊に16店舗を展開し、地域に愛される様々な種類の「おにぎり」を提供しています。本社社屋には巨大な「桃」が飾られ、1日に数回、その巨大桃からトレードマークの「おにぎりを食べている桃太郎=桃太郎人形」が現れます(もちろん、各店舗では桃太郎人形がお出迎えしています)。
でも、桃太郎がキジやイヌ、サルにあげたのは「きびだんご」だったような…。
代表取締役社長上田耕平さんを取材しました。
■桃太郎がおにぎり…
「そうなんです。前社長の父が、桃太郎が持っていたものを「おにぎり」だと勘違いしたらしく、社名を桃太郎にしてしまったんです。よく聞かれるのですが、逆に今では「桃太郎のおにぎり」と覚えていただけるようになりました。」
おにぎりの桃太郎の創業は1976年5月。現社長である上田耕平さんのお父さまが始められました。もともとは日本で初めてクルクル寿司(コンベア寿司)を展開していたお寿司屋さんだったそうです。お父さまは19歳の時にお寿司屋さんを受け継いだのですが、「何か新しいことを!」と22歳の時に渡米し、ファーストフードに出会われます。そして日本のファーストフードは「おにぎりだ!」と直感がはしり、今があると。
当時は「おにぎり」を売るという発想がなく、「おにぎり」は家で握るものという価値観が主流であったため、「売れるのか?」と社内でもかなり検討をしたそうです。そんな時、近所の主婦の方から「売ってたら嬉しいし、助かる」と声があり、家庭の温かさを大切に女性中心の「おにぎり屋」を本格的展開。おにぎり専門店として再来年50年になります。
■桃太郎のこだわり
おにぎりと言えば、米、海苔、塩、そして具。どのようなこだわりがあるのでしょう?
「お米は三重県産の『結びの神』を使っています。三重県農業研究所が12年かけて研究して誕生したブランド米です。こだわり農法で生産され厳しい品質基準をクリアしている「認定米」です。ロゴもあります。伊勢志摩サミットの際に提供されたものです。米粒が大きくしっかりしていて、モチモチとし香りもとてもよいです。そして、なんといっても冷めても美味しいのでおにぎりに最適です。16店舗で販売するおにぎりをつくる量が必要であり、安定供給を要するため、今年からいなべの生産者さんと直接契約をする予定です。
塩は三重県尾鷲市の「尾鷲しお学舎」のもの。熊野灘沖の海洋深層水から作られています。塩の中にミネラルがたっぷり含まれているのでこれまた美味しい。
海苔も三重県産のものを毎年選定して使っています。伊勢湾で育まれている海苔です。最近は海苔の価格がとても高くて。量がとれないんですよね。川がきれいすぎるのと雨が少ないことが原因のようです。自然環境によって左右されます。米も収穫できなくて価格が高くなっていますしね。気候のせいでしょうか。
おにぎりの具も地元のものにこだわりたいと思ってはいるのですが、いろいろな種類があるのですべては難しい。いつか完全三重県産の具材を使ったおにぎりを商品化したいと思っています」
おにぎりの桃太郎のおにぎりの種類はとても豊富。味ご飯に、豆ごはん、さけ、焼たらこ、明太子、高菜、昆布、しぐれ、鶏唐揚げ、ツナマヨ…まだまだあります。巻きずしも自慢の卵焼き、焼きそば、煮物のおかずも。おはぎやみたらし団子もあります。お客さまのリクエストや声を店舗でのアンケートやイベントでお聞きし、商品開発チームが検討しているそうです。
■おにぎりとSDGs
「SDGsとして取り組んでいるのは『食品ロス』です。おにぎりは1日しか日持ちがしないので売れ残ったものはすべて廃棄をします。年間7500万トンを廃棄していたのですが、出荷の調整や売れ残ったおにぎりの配布などを行い、今は年間2000万トンになりました。四日市の女子ラグビーチームのメンバーに売れ残ったものをお渡ししたり、夜間中学校に提供をしています。また、冷凍おにぎりの開発もしています。冷凍の焼きおにぎりは販売されていますが、具入りのおにぎりの冷凍は技術的にとても難しかった。美味しくなかった。ですが研究を重ねて、レンジでチンをすれば美味しく食べられる冷凍おにぎりを作ることができました。
冷凍おにぎりは食品ロスにもつながりますが、飛行機の機内食にも使えると考えています。また災害時などにもレンジがあれば食べられます。
もう一つ考えていることがあります。以前売れ残ったおにぎりを養豚業者に引き取っていただいて豚のエサとして利用いただいたことがあります。おにぎりを餌にしていた豚の肉はとても美味しかったんです。今はしていないんですけどね。
将来的に「ファーム」をもちたい。ニワトリを飼って、野菜をつくる。ニワトリの卵で桃太郎の卵焼きをつくり、自家栽培の野菜のメニューをつくる。農園の肥料は桃太郎から出た生ごみのたい肥を使い、ニワトリにも桃太郎から出る食品の残りを与える。食品ロスにもつながりますし、まさに地産地消ですよね。資源の『循環』です。今はまだ構想中ですが、リタイアした時に楽しみながらできればとも思っているのですが。」
■経営理念「社員の幸せを創り、お客様に喜ばれ感謝される」
桃太郎の社員は160名。おにぎりやおかずを製造している工場で働くスタッフ、店舗で販売をするスタッフ、商品開発をするスタッフなど女性が多いそうです。
「店舗の販売は特に女性が多いです。『お母さん企業』を意識しています。ほっとできる温かさ、ローカルさ、家庭のような雰囲気を大切にしています。ほっこりした空気を店舗で醸し出したい。「ほんわかしたおばちゃんたちがおにぎりを売っているお店」という感じかな。販売スタッフにはお客さんとのコミュニケーションを大切にしてほしいと思っています。言わなくても伝わっていますけど。」
外国の人も雇用されていると聞いていますが…。
「会社とは別に「一般社団法人グローカルユース」という外国の方の雇用促進や青少年育成を主な目的に活動をしている団体の代表をしています。そのつながりで当社にも外国の方がスタッフとしてきてくれています。とても優秀で言葉の問題もなく安心して仕事を任せています。障がいのある方も地元のNPO法人と連携して数名雇用しています。工場での作業が主ですが、皆さん頼りになる存在です。」
外国の方、障害のある方、女性など様々な人を雇用して、地域に根差し地域に愛されるお店として様々なメニューを展開されている「おにぎり屋」さんです。
■取材を終えて
とてもアグレッシブでアイデアあふれる社長の上田耕平さん。
おにぎりの桃太郎は、三重県のSDGsパートナーに登録しています。食品ロスの取組みはもちろんのこと、地域の外国の方、障がいのある方、女性の雇用を積極的にすすめ、地域のコメ農家、海苔生産者、塩生産者と連携し、地域経済の活性化をすすめています。
原材料にこだわり、製造にこだわり、美味しい素材を美味しく提供する。生産者、製造者、販売者、消費者の顔が見える。お客様とのコミュニケーションや関係性を大切にする、地域に「ぴったり」根づいた企業です。
取材当日も、お店でおしゃべりを楽しみながらおにぎりを食べていらっしゃるご高齢の方が多くいらっしゃいました。地域と地域の人々を「元気にしている」おにぎり屋さんです。
SDGsを達成するために、ではなく、地域で地域に必要な事業を「正しく」実践したらSDGsだった、という印象をもちました。
手軽に「おにぎり」を買うことのできる今だからこそ、素材や製造工程、販売している人を想い、「こだわり」を見抜き、地域の人々や自然環境を大切にした商品の選択をしなければ、と強く感じました。