
「人と動物、環境が共に未来に進んでいくかを考える場所~SDGsにつながる動物園」ごかつら池どうぶつパーク
「人と動物、環境が共に未来に進んでいくかを考える場所~SDGsにつながる動物園」
高橋 文彦 氏(ごかつら池どうぶつパーク 園長/株式会社ウェバレッジ代表取締役)
取材:2026年7月21日(火)
動物に関わる仕事についたわけ

(ごかつら池どうぶつパーク 園長/株式会社ウェバレッジ代表取締役)
高校生の頃にクリント・イーストウッド主演の映画『許されざる者』を観て、登場する「カウボーイ」の姿に憧れを感じ、「将来、カウボーイになりたい」と本気で思いました。カウボーイになるためには、馬に乗ることが必要です。馬に興味を持ちはじめ、本格的に準備を始めました。
高校卒業後は大学進学も考えましたが、「カウボーイになりたい」という思いを実現したく、カウボーイの本場であるアメリカのカンザス州やテキサス州に行きたい、と親に相談しました。しかし猛反対されました。
そんな時、日本に動物の専門学校があることを知り、入学。在学中にアメリカに行く機会がありましたが、英語もうまく通じず、本場アメリカのカウボーイの世界から「日本人にできる仕事ではない」という雰囲気を感じ、大きな挫折を経験しました。
しかし帰国後、「やっぱり馬に関わる仕事を続けたい」と思い、北海道日高地方の競走馬育成牧場で働きました。毎朝2時頃に起きて雪かきをし、馬のエサを作り、放牧の管理をする日々でした。休みもほとんどなく、この生活を続けることが難しくなり、横浜に戻りました。
ウガンダでの経験から
その頃、専門学校時代の友人から「横浜に新しい動物園ができる」という話を聞きました。それが「よこはま動物園ズーラシア」(以下、ズーラシア)です。就職したいと思い、アメリカでの体験や、北海道で競走馬を育成した経験を伝え、採用が決まりました。
最初はゾウの担当でした。ズーラシアで約17年間勤務し、ゾウなど様々な動物の飼育に携わりました。その後、管理職になり、動物と向き合う仕事よりも、動物園で働く人を管理する仕事が中心となり、自分のなかで迷いが生じるようになりました。
そんな時、JICA(国際協力機構)の研修事業の一環として、アフリカのウガンダから動物園の職員が来日することになり、ゾウの飼育や管理について研修を担当しました。ウガンダでは象牙を目的とした密猟が多く、母親を失った子ゾウが保護されていましたが、子ゾウを育てるノウハウや飼育技術が十分ではありませんでした。その後、ウガンダの動物園から「現地に来て指導してほしい」と依頼を受け、当時は子どもがまだ小さかったのですが、妻が「そんな機会はなかなかないから行ってきなさい」と背中を押してくれました。動物園を退職し、JICA海外協力隊としてウガンダに渡りました。約1年間滞在し、ゾウの飼育技術や動物園運営について指導しました。言葉の壁など苦労もありましたが、無事に活動を終えて帰国しました。


日本に帰って
帰国後、日本の動物園へ戻ることも考えましたが、「ウガンダでの経験から動物園という限られた世界だけでは…」と感じ、もっと視野を広げて仕事をしたいと考えるようになりました。JICAの事業は継続して、ウガンダの動物園とのプロジェクトに5年間ほど携わり、さらに地球温暖化防止といった環境分野の仕事にも取り組みました。その経験を通して、「動物」「人」「環境」を別々にアプローチするのではなく、「すべてがつながっていること」を実感しました。
ごかつら池どうぶつパークとの出会い
2022年建設関係の会社を経営していた父が突然倒れました。私は建設業に関わってこなかったため、会社を閉じることも考えましたが、幼い頃からお世話になっていた職人や税理士の方から「せっかく続けてきた会社を閉じるのはもったいない」と言われ、会社を存続しつつ、動物園や環境分野での経験を生かす会社を新たに立ち上げました。この会社(㈱ウェバレッジ)で動物園の運営や環境教育の実施、動物や環境に関するコンサルティングにも取り組んでいます。そして「ごかつら池どうぶつパーク(以前は五桂池ふるさと村動物園)」の指定管理者になりました。
ごかつら池どうぶつパークに最初に訪れたのは3年前です。建設関係の知人から「動物園の運営について少しアドバイスをしてほしい。」と相談を受けたことがきっかけです。実は、この地域に動物園があることを知らず、初めて訪れた時は本当に驚きました。最初は、アドバイザーとして運営について助言をする程度でしたが、その後正式に相談を受け、この動物園は町が所有し、民間が運営を担うPFI方式の施設のため、動物園の運営を担ってほしいと話されるようになりました。依頼当初は「会社を立ち上げたばかりで、人員も十分ではなく、現在の規模では難しい。」と考えていました。また、その頃はコロナ禍で来園者が減少し、施設も老朽化していました。このまま従来と同じ運営を続けても、将来的に動物園の運営が厳しくなることは明らかでした。しかし、前園長から「ぜひ引き継いでほしい」と強く依頼され、2024年2月から運営を引き受けることになりました。
持続可能な動物園づくり=ワンヘルス
最初に掲げた考え方が「ワンヘルス」です。ワンヘルスとは、人、動物、環境がそれぞれ健康で、互いのバランスを保つこと、を意味します。SDGsとも深く関わっています。人間だけが豊かになればよいのではなく、自然環境が守られ、動物が健康に暮らし、人も安心して生活できる。そのバランスを維持することが、生物多様性を守り、持続可能な社会につながると考えています。
だからこそ「動物園は単に動物を見る場所ではなく、人と動物、環境との関係を学ぶ場であるべきだ」と考えています。現在、この動物園では「動物福祉」を重視した飼育を進めています。
例えば、「夏場は冷房を使用し、動物が室内に入るか、屋外の日陰で過ごすか」を選べる環境を整えています。大切なのは、人間がすべてを決めるのではなく、動物自身が快適な場所を選択できることです。それが「動物福祉」につながります。
以前、当パークは、自由にエサやり体験をすることができ、とても人気でした。しかし、自由にエサを与えると強い個体ばかりがエサを食べて栄養が偏り、健康状態に影響が出ることがあります。その結果、ウサギが約300頭まで増えてしまうなど多頭飼育の問題もありました。現在は、「自由なエサやり」の仕組みはやめました。動物園で自由にエサやり体験を行っていると、「野生動物にもエサをあげてよい」と誤解する人が増える恐れがあり、野生動物への餌づけにつながるおそれもあります。「エサやりができなくなって残念」という声があることも理解しています。しかし、従来の方法を続ければ、10年後には同じ問題が繰り返されるでしょう。一時的に来園者を増やすことよりも、将来にわたって地域に必要とされる、持続可能な動物園であり続けることを大切にしたいと考えています。また、私たちが目指すワンヘルスでは、人も動物も安全で健康に暮らせる環境をつくることが大切です。


人と野生動物はどうしたら共生できるのか
この地域でも、森林の管理が行き届かず、シカやイノシシなど野生動物が増え、人里に下りてきています。その結果、農作物への被害など、人と動物の距離が近づくことで新たな問題が生まれます。
人と動物が共生していくためには、野生動物との適切な距離感が必要です。私は狩猟免許を持っており、猟師と話をしますが、シカの数は増えすぎています。もちろん命を奪うことには抵抗があります。しかし、個体数が増えすぎた場合は、生態系のバランスを保つために適切な管理が必要です。
その背景には、人間の自然との関わり方も大きく影響しています。森林・里山の開発(ソーラーパネルの設置など)によって、野生動物の移動経路が分断され、生息域が狭くなることで、人里へ下りてくるケースが増えています。また、野生動物のために設置した移動のためのトンネルをアライグマなどの外来種が利用するなど「人間が良かれ」と思って行なった対策が、別の課題を生みだしています。最近ではヌートリアなどの外来種も増えています。人間が持ち込んだ動物である以上、人間が責任を持って向き合わなければなりません。
さらに、これまで「猟」という手段で、人間が野生動物との関係性を維持してきましたが、野生動物を「いただくこと」も少なくなり、猟師も高齢化し成り手が不足しています。猟をやめる人が増え、「猟犬を引き取ってほしい」という相談を受けることもあります。しかし、安全面から動物園で猟犬を飼育することはできず、別の施設で受け入れる仕組みづくりも地域の課題となっています。
当パークに保護した動物を持ってくる人もいました。イタチの子どもを置いていかれたこともあります。しかし、法律上、動物園が許可なく野生動物を飼育することはできないため保健所など適切な機関へ引き渡します。「野生動物について正しく理解すること」が重要です。野生動物には人と動物の共通感染症があります。タヌキやキツネは病原体を保有している可能性があり、犬にも感染するおそれがあります。かわいいからといって近づいたり触れたりしてはいけません。人と動物が共生するためには、適切な距離を保つことが必要です。
当パークには「ペッカリー」という南米の動物がいます。南米の人たちは「ペッカリー」をとても大切にしています。「アルパカ」もそうです。現地の人たちはとても大切にしています。
動物にはそれぞれ生息する地域や役割があり、動物がどのような環境で暮らしているのかを知る必要があると考えてています。子どもの頃から動物との正しい付き合い方や距離感を学んでもらうことが大切だと考えています。動物はすべて犬や猫と同じではありません。人と動物がこれからも共に暮らしていくためには、命を大切にすることはもちろん、それぞれの動物を正しく理解し、適切な距離を保つことが何より重要だと思っています。


地域の小さな動物園だからこそできること
動物園は、動物を展示するだけでなく「動物や環境について学ぶ場」としての役割が求められています。2025年4月に日本動物園水族館協会へ加盟しました。加盟するためには、経営体制だけではなく、飼育技術や獣医療体制、動物の飼育環境、安全管理、防疫対策など多くの厳しい基準があります。例えば「それぞれの動物に適切な飼育スペースが確保されているか」「適正な頭数で飼育されているか」「感染症対策が十分か」などです。この基準を満たすことは、動物福祉の向上につながり、来園者にも安心して利用していただける動物園づくりにつながります。加盟はゴールではなく、新たなスタートです。
地域に根ざした小さな動物園だからこそ果たせる役割があると考えています。加盟によって、希少動物の種の保存計画にも参加できるようになりました。
マヌルネコとコウノトリ、ニホンカモシカ
今ある環境を生かし、この動物園にふさわしい動物を受け入れることにしました。日本動物園水族館協会では「種の保存」に取り組んでおり、全国の動物園で血統管理を行い、どこで飼育し、どこで繁殖を進めるかを調整しています。
その中で、神戸どうぶつ王国で繁殖した「マヌルネコ」を当園で受け入れています。飼育下での繁殖を目的に、全国の動物園と連携して「希少種の保全」に取り組むためです。「この動物園なら安心して任せられる」と信頼していただいた結果だと受けとめています。
また「コウノトリ」を迎える準備も進めています(2026年12月予定)。コウノトリも希少種ですが、豊岡市を中心に多くの人の努力によって野生復帰が進められています。三重にも飛んできました。しかし、一カ所の施設で飼育すると感染症などが発生した際のリスクがあるため、飼育場所を分散することも重要です。当パークも一つの施設として役割が担えればと考えています。
また、三重県はニホンカモシカの保全にも取り組んでいます。御在所のカモシカセンターが閉館したため、今当パークで三重県やNPOと連携しながら、野生で怪我をした個体の受入れをはじめ、普及啓発を進めています。生物多様性及びニホンカモシカの生息環境、生物多様性を学ぶ展示づくりを進めています。


かわいい!だけで終わらせない動物園に
本来は、保護された動物は野生へ戻すことが理想です。しかし、野生に戻すことができない個体については、人間が責任を持って飼育管理をし、その状況や背景を伝えていくことが大切です。動物を「かわいい」で終わらせない動物園を目指しています。その動物がどこで暮らし、なぜ数が減っているのか、人間の暮らしとどう関わっているのか、そうした背景を知ってもらうことが動物園の役割だと考えています。触れあいやエサやりは、動物を好きになる「きっかけ」にはなります。しかし、それだけでは本当の意味で動物を理解したことにはなりません。これからは、「触れること」以上に「理解すること」が大切です。動物を通して、生物多様性や環境問題、人と自然との関わりを考えることが「SDGsにつながる動物園の役割」だと思っています。小さな動物園だからこそ、人と動物、自然との距離が近く、伝えられます。学校や保育園に動物と一緒に出向く出張授業も行っています。ヤギやウサギとの触れあいを通して命について学び、「今度は動物園へ行ってみたい」と家族で来園してくださる方もいます。動物園は、動物を見るだけの場所ではありません。人と動物、環境がどのようにつながり、どうすれば共に未来へ進んでいけるのかを考える場所です。その積み重ねが、地域にとっても未来にとっても、持続可能な動物園につながっていくと考えています。


