
「森林・木材から問うSDGs」有限会社世古林業
森林・木材から問うSDGs
世古 武弘 氏(有限会社世古林業 代表取締役)
取材:2026年6月9日(火)
木材を生かした建築を続ける

私が学校を出た頃は高度経済成長期で、従来の無垢材や自然素材に代わり、工場で加工・改良された建築用材料が普及した時代です。掃除がしやすくて価格が安い合板や新建材が当たり前のように使われるようになりました。その結果、木材は構造材として使われることが主になりました。
冬のある日、建築現場で合板の床と無垢材で作られた床に立った時に、合板の床がとても冷たく感じました。その経験から「もっと木を使うこと、木の使いかたを考えなければいけない」と強く思うようになりました。
転機は阪神・淡路大震災以降です。木材価格が下がり、内装材としても使いやすくなりました。床や壁に木材を使った家の施主から「冬でも暖かく感じる。」という声をたくさんいただきました。人は五感で木の良さを感じられます。だからこそ、木材を活かした建築を続けていきたいと思っています。
本当の木のよさ
今の気候変動や資源の枯渇の問題、社会課題や持続可能な社会づくりを考えると、木材は非常に重要な素材です。木は成長する過程で二酸化炭素を吸収し、その炭素を内部に固定しています。そして役目を終えて燃やしたとしても、もともと吸収した炭素が大気中へ戻ります。まさに、カーボンニュートラルです。SDGsや循環型社会を実現していく上でも、木材は欠かせない素材です。だからこそ、少しでも多くの人に木材に関心をもってもらいたい。
日本は昔から木の文化を育んできた国です。それは身近に木という優れた素材があったからです。しかし、これからは「近くに木があるから使う」という時代ではないため、「木が優れた素材だから使う」という価値を伝えていかなければなりません。そのためには木の良さをもっとPRしていかなければいけません。しかし、「本当の木の良さ」が十分伝わっていないように感じています。木の家は、実際に一年を通して住んでみないとその良さがなかなかわからない。家という大きな買い物をする前に、木に触れ、木の良さを実感してもらいたい。その思いから木工品づくりにも取り組んでいます。

木を感じる
木を「五感」(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)で感じることがとても大切だと思っています。例えば「香り」です。木は樹種によって香りが全く違います。その香りを体験できる商品の開発を検討しています。このパウダーは、製材した直後の木の香りに非常に近いものです。知人が開発したものですが、黒曜石の粉に木の精油をまとわせシルクパウダーを加えて作られています。こういったパウダーをどう広めていくかを検討していて、クラウドファンディングの活用なども考えています。
暮らしや住まいに提案を
伊勢神宮神域に育つ神宮杉はとても魅力的です。特に樹齢300年以上の神宮杉(御山杉)は、香りが非常にまろやかです。若い木とはまったく違います。成分の分析をするとリラックス効果が期待できる成分が多く含まれています。
木の音や手触りなど五感で木を感じられる暮らしや住まいを提案し木材の魅力を伝えるために、さまざまな木工品を製作しています。例えば木の紙を使った折り紙です。木を薄く加工し、裏に和紙を貼っています。最初は木の香りも楽しめます。また扇子も製作しています。市販されている扇子を使った時に、使いづらさを感じたことがきっかけで、「自分が本当に使いたいもの」をつくりました。心掛けているのは、木目の美しさを活かした製品づくり。地域の木材を職人や和紙作家、絵師の方と協力しながら商品を開発しています。

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これからの山の仕事
小さい頃から木に囲まれて育ちました。祖父に連れられて植林に行きました。子どもの頃から「特別に木が好きだった」というわけではありません。木があることが当たり前の環境でした。
今の森林は十分に管理されているとは言えません。放置林も多くなっています。昔は、山を持っている個人が自ら山に入って枝打ちをするなど管理、保全をしていました。今はそういう人が本当に少なくなりました。2人、3人で山の管理をしていた山主も減っています。今は最低でも5人くらいでチームを組み、伐った木をトラックに積み込み効率よく搬出しないと採算が取れません。しかし今後、肉体労働のこの仕事には脚光が当たるのではないかと思っています。木を伐ったり、枝打ちをしたり、下刈りをしたりなど山の仕事は毎日同じ作業の繰り返しではなく、状況が日々変わるので、流れ作業より面白い仕事だと思います。暑い日もあれば寒い日もありますが、機械化できるところはしながら、自然の中で働くことを求める人がこれから出てくるのではないでしょうか。
日本の木材の可能性
今、地方では人口流出に伴う人口減少が大きな問題になっています。三重県でも南部地域ほどその傾向が強く、しばらくは続くと思います。そういう状況だからこそ、木材や森林の価値が改めて見直される時期が来るのではないかと感じています。無理に時代の流れへ逆らうのではなく、その流れを見ながら取り組んでいくことが大事だと思います。国内需要は今後さらに減少していくでしょう。木材産業も海外市場を視野に入れる必要があります。海外のクラウドファンディングなどを見ると、日本に興味を持っている人は多く、日本の木材にも可能性があります。
木材には産地や種類によって大きな違いがあります。一概に「三重県産の木がよい」という話ではありません。構造材には構造材に適した木を、造作材には造作材に適した木を選ぶことが大切です。近年はCLTなどの技術も進み、中高層建築やホテルにも木材が使われるようになりました。建築だけでなく、家具や日用品など、暮らしのさまざまな場面で木材利用を広げていくことが重要です。木材を単なる建築材料としてではなく、日本文化や自然とのつながりを再認識するための大切な素材だと考えています。木の香り、音、手触り、そして暮らしの中で感じる心地よさ。そうした木の魅力を、これからも伝えていきたいと思っています。



